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その日、私と元夫は携帯電話でケンカをしていました。
お互い、いい年をしていながら、ギャーギャーと文句を言い合って、どちらも譲りません。
2人が同時に大声で主張をするので、相手が言っている内容がよく聞き取れず、訳がわからなくなります。
そこで元夫が冷静に、「おい、ちょっと待て、俺が先に話す」 と言いました。
「えー、なんでそっちが先? 私が先に話す」
「いいから! 俺が話をまとめてやるから、よく聞け」
「私のほうが、まとめるのがうまいってば」
「待て、とにかく順番や! あとで俺も黙って聞くから」 と元夫が強引に順番を決め、先にああだこうだと自分の主張をしました。
元夫は論理的に話を組み立てて説明するので、最後まで聞くとなると、ヒジョ〜〜~~〜に長く、また回りくどく、わかりにくいです。
結論を先に言え! とイライラしながら終わるのを待ちました。
長い時間をかけてやっと話が終わったので、言いたいことはそれだけか、よし、今度は私の番だな、とこちら側の主張をしていると、
「あ、ちょ、ちょっと待って」 と元夫が言います。
「なんで待たなあかんの! 私、さっき黙って15分くらいひたすら聞いたやん! 順番やろ」 と言うと、
「ちゃうねん。亀が……」
「え? 亀?」
「でっかい亀がな、道路の真ん中におんねん……」
「生きてんの?」
「うわ! 生きてるわ。危ないな〜、ここにおったら車にひかれるで」
「それは助けてやらなやろ」
「そらそうやけど、どうやって?」
「手で甲羅をつかんだらええやん」
「あかん! こいつに指を噛まれたら食いちぎられる」
「いやいや、それは……大げさやろ~」 と言うと、写真を送ってきました。
う〜ん、たしかにでかい、です。
元夫は傘を持っていたので、「傘で軽くちょんちょんと突いて、亀に自分で歩いてもらったら?」 と提案しましたが、手足を引っ込めてしまうらしくて、うまくいきません。
「いいこと思いついた!」 と元夫は、傘を開いてビニールの部分で亀をすくうようにし、なんとか亀をビニールに乗せ、道路の端までズリズリと連れて行ったそうです。
亀は草の上に来ると 「ん? ここ、どこ?」 と顔を出してキョロキョロし、「あ、こっちやな」 とばかりに川の方向に向かって歩き出した、ということで写真と動画を送ってきました。
しばらく亀の行方を見守っていた元夫は、 「よかったわ〜、川の方へ行ってくれて。もう大丈夫や」 とホッとしていました。
「亀って、恩返しするよね」 と私が言うと、
「え! マジで!」 と元夫は、さっきまでの不機嫌はどこへやら、急にテンションが上がりました。
亀の恩返し話は、今昔物語をはじめ、昔の書物に多く書かれているので、亀とはそういう生き物である、と昔からそうなっているのではないかと思います。
「浦島太郎は竜宮城に連れて行ってもらえたわけだから、それくらいの大きな恩返しがあるかもよ?」 と、言うと、元夫は、
「もしかして、宝くじの当選?」 とすでに当たったかのような喜びようで、超ウキウキでした。
が、しかし、ですね……。
あれから1週間くらいたっていますが、いまだに恩返しはもらっていないようです。
ただの亀だった……という可能性が強いのですが、もう少し期待して待ってみてもいいかなと思っています。
恩返しがあったらご報告しますが、報告がない場合、「恩返しはなかったのね〜」 「やっぱり、ただの亀だったのね〜」 と思って下さい。
珍しい出来事なので、ちょっと書いてみました。
ちなみに恩返し話で盛り上がったため、ケンカはうやむやになりました……。