※「於岩稲荷田宮神社」の続きです。 「なんで人間なのに、神社がお稲荷さんなのだろう?」と、不思議に思いつつ、とりあえず本殿の前で手を合わせました。 すると、さきほどまで横にいた女性(あとからお岩さんだと判明したので、ここからはお岩さんと書きます)が、本殿の中に入って、畳の上で正座をしました。 ど真ん中ではなくて、手前の右端のところに座って、私を見ているのです。 手を合わせてわかったのは、神様はやはりお岩さんではなく、お稲荷さんのようでした。 が……私には、ご祭神としてのお稲荷さんはここでは感じられませんでした。 空っぽ? と思ったのですが、でも、薄~~~~~~~~~~く、かすかに神様の気配がしています。 あれ? ここは、もしかしたら分社? と思い、その場で調べてみたら、新宿のほうにも「四谷於岩稲荷田宮神社」がありました。 そちらの神社は、昔、お岩さんのお屋敷があった場所みたいです。 え? どういうこと? 名前が一緒だからやっぱりこっちが分社ってこと? それとも別の神社? と、必死で調べていたのですが、蚊がものすごく寄ってきます。 刺されたらイヤだなぁ、と、ふと見ると、お賽銭箱の横のところに印刷された紙が置かれています。 その紙には由緒みたいなことが、小さな文字でたくさん書かれていました。 1枚もらって、由緒を読もうとしましたが、突っ立ってじっと読んでいると蚊に刺されそうだし、ネットで新宿の神社までどれくらいかかるのかも調べたかったので、一旦神社を出ることにしました。 カフェにでも入って、ゆっくり座って、調べたり読んだりしたかったのです。 で、すたすたと神社の出口のほうへ歩いていたら……。 いきなり、お岩さんが無言で私の右腕をグイ! と引っ張りました。 私の霊体を引っ張ったのではなくて、実際の、3次元の本物の手を、グイ! と引っ張ったのです。 もちろん、感触もありました。 これには、さすがの私も「ひ~え~っ!」とちょっとビビりました。 そこでお岩さんは初めて口を開きました。 「帰らないで」と。 「いやいや、帰るんじゃなくて、ちょっと調べたいんです。だからカフェにでも入って……」と説明をして、カフェを探したのですが周辺にはありませんでした。 境内に戻るのはイヤだったので、ぐる~っとまわって高層ビルの前にベンチを見つけ、そこに座りました。(今、調べたら、東京住友ツインビルという名前でした) ガサガサとさきほどの紙を出して読もうとすると、お岩さんがベンチの目の前に立っています。 「お岩さん、隣に座り~。どうぞ」と言うと、隣にちょこんと座ります。 本当に慎ましやかな女性なのです。 で、私が由緒を読んでいると、しくしく泣きます。 「くやしい」と……。 「待ってね、お岩さん。私、事情がよくわかっていないから、これを先に読ませて下さいね」 そう言って、神社の由緒書きを読みました。 そこには、お岩さんという女性が江戸初期に実在した人物だった、と書かれています。 箇条書きで内容を要約しますと……。 ・お岩さんと夫の田宮伊右衛門は、人も羨むような仲の良い夫婦だった ・しかし、伊右衛門は「30俵3人扶持」で年に16石足らずしかお給料をもらえない ・よって、台所はいつも火の車だった ・お岩さん夫婦は家計のために商家に奉公に出た ・お岩さんは日頃から田宮家の庭にある屋敷神を信仰していた ・そのおかげで夫婦の蓄えは増え、かつて栄えていたような田宮家に戻った ・信仰のおかげで田宮家が復活したという話はたちまち評判になり ・近隣の人々はお岩さんの幸運にあやかろうとして、屋敷神を「お岩稲荷」と呼んで信仰するようになった ・鶴屋南北はお岩さんが亡くなって、200年の年月がたってから、芝居のお話「東海道四谷怪談」を書いた ・その怪談は、江戸で話題になった事件をいくつか組み込んで作ったもので、お岩続きをみる
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