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言葉の難しさ

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少し前に同僚が、主任は自分のことが嫌いに違いない、とグチを言っていました。

まったくそういう話は耳に入ってこないので、誤解していると思うと答え、でも何故そう思ったのか尋ねてみました。

すると彼女が言うには、主任は利用者さんに紹介する時、 「この人はおっとりしてるから~」 とか 「新入社員の○○さん。おっとりしてるのよ」 と、必ずその言葉を入れる、とのことでした。

「ホンマ、腹立つねん。おっとり、おっとりって・・・それって、トロいってことやんか!」

えっ、そう解釈する? と驚きました。

おっとりしてるっていうのは、ガサツではなく、些細なことでイライラしたりもせず、温和な性格であるという褒め言葉なのだとフォローしましたが、 

「識子さんがこの言葉を使った時はそういう気持ちで言ってると思うことにする。けど、主任は絶対に違うわ!」 と最後まで悪意説を捨てませんでした。

これは女性の利用者さんの話です。

利用者さんのお友だちが、自分で作ったおかずのおすそわけをしてきた時に 「作り過ぎたから、これ食べて~。食べないなら、捨てて」 と言ったそうです。

利用者さんは、 「捨てるようなもんをうちに持ってきたんか! って腹立ってなぁ。なんであんな言い方するねん」 と怒っていました。

「上手に出来たかどうか自信がなくて、無理して食べなくてもいいよ~、って思いやりの気持ちから出た言葉だとは思いますけど・・・」 とフォローしましたが、 「アンタ、そう言われて気分ええか?」 と利用者さんはプリプリしていました。

言葉の使い方は難しい、と思います。

訪問介護の仕事のひとつに ”通院等乗降介助” というものがあります。

利用者さんを家から病院までヘルパーの運転する車で送り届けたり、迎えに行ったりするサービスです。

これは車の二種免許を持っている人か、福祉有償運送運転者講習の修了証を持っている人でないと出来ません。

その資格を取りに、自動車学校の講習に行った時のことです。

講習者に60代の男性がいました。

この方は、長年介護職で働いていて経験豊富なうえ、福祉関係のいろんな資格も持っている人でした。

講師も (30才くらいの男の人です) 失礼がないように、時々、男性に体験談や意見などを聞いて、講義を進めていました。 (運転に関する実技よりも、介助に関する講義の方が多いのです)

講習が終了し、最後に1人ずつ感想を言った時のことです。

男性が言いました。

「私は長い間、介護の仕事をしてきたし、あれもこれも (具体名) 資格をたくさん持っております。会社に言われたので、今日は仕方なくこの講習を受けに来ました。この私が、今さら自動車学校の若造に何を教わるねん、行って学ぶことがあんのか、と思いました」

ひえー! と教室中が凍りつきました。

すごく強い口調だったので、 ”この俺様に介護のことを教えられるやつが、自動車学校なんぞにいるわけがない” そんなふうに見下したように聞こえたのです。

みんな一斉に講師の人を見ました。

講師がいい人だったため、そんな言われ方をして可哀想、という気持ちになったのです。

講師はそれまでニコニコしていましたが、 ”若造” というキツイ言葉のところで、笑顔が消え顔が歪みました。

男性のその後に続く言葉は 「でも、今日はとても勉強になり、来て良かったです。まだまだ学ぶことはあるのだと思いました。ありがとうございました」 でした。

この後半部分を際立たせようとして、前半部分を強めに言ったのだと思われますが、残念ながら前半部分のインパクトが強すぎて、後半は打ち消されたような感じになりました。

講師もそこから笑顔がなくなり、なんとなくシーンとしてしまいました。

多分、そこにいた全員が男性の言わんとしていることは理解出来ていたと思います。

ですが、言葉が持つ力は大きく、いくら頭でそういう結論だったのねと納得しても、後味の悪い気持ちはしばらく続くのです。

言葉の力はすごいです。

1人暮らしの女性の利用者さんで、とても親孝行な娘さんを持った方がいます。

娘さんは独身で、車で30分離れた所に住んでおり、仕事を2つかけもちしていて大変忙しい方です。

時間が空けば少しでも寝ていたい、という状況なのに、母親である利用者さんの為に、月に4~5回はその貴重な時間を削っています。

代わりに買い物に行ったり、病院に連れて行ったり、美容院にも連れて行くし、お役所関係や支払いのことも娘さんがしています。

お世話をしたその日は、疲れが取れないまま次の仕事に行くわけで、しんどいと思います。

利用者さんは、娘の孝行ぶりは痛いほどわかっていますし、ありがたいと思っています。

ですが・・・娘さんが、睡眠不足や疲れで、イライラして投げつける言葉で、 「もう世話なんかしてもらわんでええ!」 と怒り狂うことがあります。

私がいる時に、娘さんが買い物したものを届けに来た時のことでした。

娘さんは台所にいた私ににこやかに挨拶をされましたが、かなりイラついている様子でした。

突然、リビングで 「もー! 馬鹿みたいに大きい音でテレビ見てー!」 と言ったかと思うと、パチンとテレビを消しました。

「あー、耳が痛い! つ●ぼになりそうやわー!」

その後、何かの書類の件で母娘でやり取りがあり、いきなり娘さんが大声をあげました。

「はぁ? 覚えてないの? だから言ってるやろー! 脳外科行って CT 撮ってもらいーって! それ、認知症やで!」

「ボケ老人になるで! 知らんで!」

うわぁ・・・すごい言葉を口から出すなぁ、と思いました。

娘さんが帰った後、利用者さんがしみじみと言いました。

「あんな言い方されたら、腹が立つん分かるやろ? ありがたいと思てても、あれでいっぺんに吹き飛ぶねん・・・」

たしかにそうだろうなぁ、と思いました。

娘さんの行動を見れば、親思いの孝行娘で、それは誰にでも出来ることではありません。

それが、投げた言葉ひとつで半減・・・どころか、帳消し、もう来てもらわなくてもいい、というところまでいってしまうのです。

せっかくいいことをしているのに、自分で価値を下げてしまって、もったいないなと思いました。

言葉の使い方は本当に難しく、しかも、一度口から出たら取り戻せないので、怖いと思います。

「駟 (し) も舌に及ばず」 

若い頃にこの中国のことわざを知ってから、時々、自分に言い聞かせて戒めていますが、私もよく失敗します。

脳みそを通らずについ口から出てしまう言葉をコントロール出来なかったり、その人にとって使わない方がいい言葉をうっかり言ってしまったり、ちゃんと考えてしゃべったつもりが裏目に出て墓穴を掘ってしまい頭を抱えた、ということもあります。

そういう時は本気で何日も落ち込みます。

書く作業もそうですが、言葉っていうものは本当に難しい・・・とつくづく思います。






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