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高齢者の悩み~お荷物の自分~

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ひそスピ2冊目のお知らせの続報です。

前回のブログでお知らせした後、ハート出版さんから 「やっぱり出来るだけ写真を載せましょう」 との提案がありました。

時間的にギリギリでしたが、印刷所に待ってもらい、出版社のかたは深夜まで作業をして下さいました。

その結果、文章だけだった中身に写真が入り、素敵な仕上がりになっています。

少しでも読者の方に喜んでいただきたいという出版社のかたの情熱はすごいですね。

心底、ありがたいと思いました。

動画はここでしか公開が出来ないので、本を読んですぐに見れるよう、発売前にアップしておこうと思います。

雰囲気をもっと知っていただくために、写真も何点かブログで公開する予定です。

3月に入ったら順次アップしていきます。

興味がおありの方はご覧になって下さい。



ひそスピ2表紙
神社仏閣 パワースポットで神さまとコンタクトしてきました (ひっそりとスピリチュアルしていますPart2)


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

女性の利用者さん、Lさんのサービスに入った時のことです。

「Lさ~ん、こんにちはー!」と入っても返事がありません。

いつもは必ず「はーい」と返事をしてくれるのです。

玄関すぐの台所を抜けて、部屋のふすまを開けると中が真っ暗です。

縁側に続く方のドアも閉めてるので光が入らず、それなのに電気も点けず、Lさんはベッドの上に、小さく丸くなって横たわっていました。

「Lさんっ! 大丈夫ですかっ? どこか具合が悪いのですか!」 と、慌てて駆け寄ると、

「どこも悪ない・・・」 と、Lさんはその姿勢のままで、元気なく答えました。

「寝てらしたんですか?」

「いいや・・・」

「お昼、召し上がりました?」(お昼の1時でした)

「食欲・・・ないねん・・・」

ただならぬ様子にこれはおかしいと思い、いろいろと突っ込んで聞きました。

Lさんは90代の女性です。

息子さん家族と同居されているのですが、2世帯住宅になっているので、家の中のドアで繋がってはいるものの、Lさん専用のお宅という感じです。

Lさんは100才近いこともあって、物忘れを時々します。

しかしそれは、年相応の物忘れであって認知症ではありません。

ですが、本人はそれをとても気にしています。

Lさんは 「私な、どこかよそにやられてまうかもしれへん」 と言います。

「息子が私をよそへやってまう・・・私、ここから動きたないねん」 と泣きそうな声で、悲しそうに言うのです。

よそ、とはどこかと聞くと、さぁわからへん、娘の所か、年寄りばっかり行くとこあるやろ? あんなとこちゃうか・・・とのことでした。

なんで急にそう思ったのか尋ねてみました。

すると・・・自分はアホになってきている、だから息子が一緒に暮らしたくないと思っているのではないか、しかも年金をもらっていないので、お金はすべて息子が出してくれている、自分は完全に息子にとってお荷物なのだ、と言うのです。

お金の件は以前から、申し訳ないという話はしていたのですが、ここまで落ち込んでいるのは初めてです。

放っておいたら死んでしまうのではないか? と思うくらいふさぎ込んでいました。

そして、蚊の鳴くような声でポツリと言った言葉がこれです。

「生きててごめん、て思うねん・・・もう、はよ死にたい・・・」

ここの息子さんは非常に優しい人で、仕事から帰宅すると必ずLさんのお部屋をのぞいています。

ちゃんと食事はしたのか、薬は飲んでいるか、変わったことはないか、ヘルパーの記録にも目を通していて、そこに「風邪気味のようです」と書かれていたら、事務所の方に確認の電話をしてくるくらい、母親を心配されています。

ヘルパーが付き添いで病院に行く時も、仕事を抜けて送り迎えをしてくれます。

親思いのいい人なのですが、照れ隠しなのか、そういう言葉づかいがクセなのか、ちょっとぶっきらぼうな印象を受けます。

このお宅のサービスは朝・昼と、毎日2回入るので結構多くのヘルパーが出入りしていますが、息子さんが怖くて苦手というヘルパーもいるくらいです。

「よそにやられるって、それは息子さんがそう言ったのですか?」 と聞くと、

「息子にな、今は寒いから動かさんといてー、って頼んだらな、じゃあ春になったら考えよう、ってそう言うたんや」 とLさんはますます丸く小さくなっています。

あー、なるほど、きっと息子さんは、しつこく何回も、他へ移すのではないかとLさんに言われて、はいはい、わかったわかった、じゃ春になったら考えような、と答えたのだろうと思いました。

2世帯住宅まで建てているのですから、息子さんは一生面倒を見るつもりなのです。 

しかし、心が弱っているLさんにはそういう判断が出来ません。

幸せは人と比べるものではありません。

が、時と場合によります。

私は別の高齢者のお宅の話をしてあげました。(もちろんどこの誰だかわからないように細心の注意を払って話しました)

そのお宅は息子と2人暮らしですが、息子は一切母親の面倒をみません。

ほぼ寝たきりの母親のオムツは、夕方ヘルパーが交換し、朝まで濡れたままです。

一度、ベッドから転がり落ちたことがあって、夕方のヘルパーが帰った直後に落ちたまま、朝までその姿勢だったことがあります。

朝、ヘルパーが行くと、脱水症状になっていて体も冷え切っており、大騒ぎになりました。

息子は関わるのは嫌だから早く施設に入れてくれ、とケアマネに言っているそうです。

そういうお宅の話をすると、Lさんは、その息子に比べてうちの息子はなんて優しいのだ! と気づき、実は子供の頃から優しかった子やねん、という話をし始めました。

Lさんの元気が回復してきたところで、 「はよ死にたい」 なんて思ったらダメですよ、Lさんがいなくなったら私は悲しいです、ここに来て昔のいろんな話を聞くのが楽しみだし、私はLさんといると楽しくて、Lさんが好きです、いつもここで大笑いさせてもらってるのに、Lさんがいなくなったら仕事が楽しくなくなります、と正直な気持ちを伝えました。

するとLさんは 「そうか?」 と急に明るい表情になり、 「ご飯、食べよか?」 と起きあがって、食事をしてくれました。

Lさんは、朝のヘルパーにも同じ内容のことを言ったそうで、それを聞いた朝のヘルパーは 「Lさんがいなくなったら、私のサービスが1軒減って、給料が減るから困るんですよ~、私の家族がご飯を食べられなくなりますからね、頑張って長生きして下さいね」 と答えたそうです。

昼食をもりもり食べながら 「なんで私がヘルパーさんの給料のために長生きせんとアカンねん・・・」 とブツブツ言っていました。

朝のヘルパーはいい人だし、冗談めかして明るく慰めたのだとわかるのですが、心が弱っている時には逆効果です。

これは高齢者に限らず、人は極端に心が弱っている時があります。

そういう時に、自分の普通の温度というかテンションで話をすると、相手はかえって傷ついたりします。

心が弱っている相手には、照れとか恥ずかしいとかいう感情はかなぐり捨て、たとえ冷静な自分が 「くさいセリフだなぁ」 と思っても、正直な気持ちで接した方がいいです。

気持ちは口に出さなければ伝わりません。

けれど、いくら口に出したところで、冗談の裏に心配している気持ちを込めた言葉は、相手にそこを深読み出来る余裕がなければ伝わらず、心が弱っている状態では無理だと思った方がいいです。

励ますつもりが、かえって落ち込ませてしまう恐れがあると思います。

おっと、話がそれてしまいました。戻します。

この日、私は事務所で叱られることを覚悟の上で、Lさん宅のサービスを10分オーバーしました。

その10分間は、たわいない話をし、2人でゲラゲラ笑いました。

ここに来ると楽しいから時間をオーバーしてしまうんですよね、今から事務所に戻って怒られます~、と言うと、Lさんは明るい表情で 「道が混んでたって言いー」 と嬉しそうに笑ってました。

介護の世界は、介護をしている側が精一杯尽くしていても、高齢者側が 「申し訳ない」 という気持ちから卑屈になり、このような行き違いが起きることがよくあります。

介護をする側にもっと気を使えというのは酷な話で、それでは介護する方も参ってしまいます。

こういう時こそ、介護を仕事にしているヘルパーやケアマネ、施設の職員が力になって差し上げるべきで、家族の介護をしている人は介護サービスをたくさん利用するといいと思います。

Lさんは、厳しい姑にいじめられながらも、多くの子供を育て、戦争の悲惨な体験も味わっています。

仕事もして働いて、学校に行っていないので字が読めず苦労したそうです。

娘と夫に先立たれた時は後を追おうとし、深い絶望も味わったそうです。

そして今、やっと余生と言われる年齢になって、のんびり穏やかに過ごせるようになりました。

100才近い年齢まで大きな病気もせず、健康で長生き出来ていることは、喜ばしくおめでたいことです。

おめでとうと言われるべきその人が 「生きててごめん」 という、こんな悲しい言葉を言わずにすむよう、微力ながらヘルパーとしてもっと寄り添って差し上げたいと思った出来事でした。




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